奨学金

1. 奨学金とは?

日本の大学で「奨学金」というと、卒業後に返済の必要のある「貸与型奨学金」(loan)を指すことが多いですが、ここでは海外博士課程進学希望者向けの返済の必要のない「給付型奨学金(以下、「奨学金」)」(scholarship, fellowship)について説明していきます。海外大学院の博士課程では、自費ではなく奨学金や教授(研究費)からの給与によりお金をもらって生活する場合がほとんどです(日本人PhD生100人の台所事情!)。さらに奨学金には、日本の財団が支給する奨学金と、海外大学や財団が支給する奨学金がありますが、ここでは日本の財団が支給する奨学金について言及します。

2. 奨学金の種類

海外大学院進学のための日本からの奨学金はここに挙げただけでも約20種類あり、少なくとも毎年約250名の奨学生が選抜されています。以下がその奨学金の一覧です。

奨学金の応募条件や特色についての一覧はこちらのページをご覧ください!

出身大学の指定がない奨学金

指定大学の推薦でのみ出願可能な奨学金

奨学金によっては、上にあるように、指定された大学に所属している人しか応募できないものもあります。もしその指定大学に所属している場合は、学内選考の締め切りが他の奨学金よりも早い場合があるのでよく確認しましょう。

奨学金ごとで応募条件や支援内容等は様々ですが、注意して比較する項目として金額給付年数はもちろんのこと、奨学金合格通知の時期があげられます。大学院受験の12月の前に採否の通知が来ない奨学金(例:日本学生支援機構の海外留学支援制度は合格通知が3月上旬)は、出願の際に”奨学金あり”と書けないため、受験の時点では有利に働くことはありません。また、奨学金選びで意外に重要なのが、奨学生のカラー奨学生同士の交流の活発さです。世界中に散らばった奨学生と定期的に交流できることで、異分野や他大学の人と触れ合う機会が自然と増えていきます。

3. 奨学金をもつことのメリット・デメリット

奨学金を得ることのメリットは受験時だけでなく大学院在学時にもあります。また、メリットに見えるものも、別の視点から見るとデメリットとなる場合もあります。

出願時

出願時には、奨学金を得ることでデメリットとなることはほとんどないでしょう。奨学金を持っていることは、出願に良い方向に働きますが、その理由としては

A.自分でお金を持ってくるため、大学、教授側の金銭的負担がなくなる/少なくなる。その浮いた分で、他の学生を取ったり、器具の購入が可能となる
B.奨学生として選抜されているので、奨学金ごとに程度の差こそあれ、優秀さの指標となる

が挙げられます。Aに関しては、給料を先生が払う必要のある大学院学生一人を雇うには、私立なら年間約1000万円、州立校なら州外から来た学生に対し年間約1000万円弱、一定期間州内居住している学生には年間約700万円弱の予算をとってこなければいけません。これは学生の給料だけではなく年間の授業料も含まれています。その金銭的負担を奨学金で賄える学生は合格しやすくなるのは少なからずあるようです。ただし、お金が潤沢にある名門大学では、奨学金の有無が審査に全く関係ないこともあるようです。

米国大学院在学中の日本人学生の41.5%は日本からの奨学金なしというアンケート結果も出ています。

在学時

在学時にも奨学金を持っていることでのメリットは多くあります。教授は大学院生に対し、年間約300万円の給与を支払う必要があり、RA (Research Assistant) の場合基本的に研究費から支払われます。研究費を獲得するためには、研究成果を出す必要があり、その研究結果を出すのは研究室の労働力となる大学院生やポスドクとなります。つまり、アメリカの大学院の研究室は小さな会社のようなものといっても過言ではありません。奨学金はその仕組みからはずれる一つの方法でもあります。それにより生じる具体的なメリットは、

A. 受験と同様、希望の研究室に入りやすくなる
受験時と同等の理由で、先生がその学生をグループに入れるかどうかの判断にお金の要因がなくなります。財政的に苦しいグループほど奨学金を持っていることが評価される傾向にあります。

B. 研究室に財政難があった場合に、解雇される確率が小さくなる
これは、研究室が財政難に直面したときに実際に起こることで、自分でお金を持ってきていることで、避けることが可能です。

C. ファンドが出ているプロジェクトに常に従事する必要がなく、自分のしたい研究ができる
ファンドに関わらず、自分のしたい研究テーマに従事することができます。

D. ファンドを継続して得るために研究結果を出すというプレッシャーを受けづらい
ファンドを継続して受けるためには、決められた期間に一定の成果を出さないといけません。そのプレッシャーを受けずに、ストレスなく研究に集中することができます。

E. 金銭的な理由のためだけにTA (Teaching Assistant) をしなくて済む
TAをすることのメリットも多くありますが、研究時間が減ることにもつながるので、TAをすることを望んでいない場合は奨学金を自分で持っていることでそれを避けることが可能です。

F. 奨学生同士のコミュニティができる
何年も続いている奨学金の場合だと、同期だけでなく、先輩や後輩といった縦の繋がりも持つことができます。

以上6つが挙げられます。ただし、これらは別の視点から見るとデメリットにもなり得ます。

補足・追記:人文・社会科学系専攻の場合は理系学部とは違い特定の研究室に所属しない場合が多く、給料の支払いは直接大学院に紐づいてるケースが多いとされています。もちろん大学・学部・教授にもよりますが、給料が学部から支払われていると研究室・教授の意向に左右されることなく比較的自由に研究テーマを選択することができます。自分の希望進学先がどのような給与体系なのか、事前にリサーチしましょう。

4. 奨学金を取るには?

では、奨学金を得るためにどう対策すればよいのでしょうか。財団側は基本的にその学生が実際に海外大学院に合格できるかどうかを見ていますつまり、奨学金の出願は、海外大学院受験の模擬試験のようなものであると考えることも可能です。また、奨学金は一度に複数出願ができるため、受験時に奨学金を獲得した人の内70%が3つ以上の財団に申請していたということが日本人留学生へのアンケート結果からわかりました。

財団によって応募書類は異なりますが(各財団の応募要項まとめ)、奨学金申請には基本的に英語能力試験結果(TOEFLなど)出願理由(SOP)CV推薦状が必要となります。奨学金の申請の時期は、書類の提出が8-9月、面接が10-11月となっています。奨学金を取るために余裕をもって準備しましょう!